※生理痛の表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
わたしの役目、あなたの役目
道子は生理痛が重い方だった。
同乗したのぞみの乗務員室でぐったりと椅子の背もたれに寄りかかる道子へ陽子は常備している鎮痛剤と水を差し出した。
「いつも用意しなさいって言ってるでしょ」
あなたは生理痛がひどいんだから、と何度言っても道子は鎮痛剤を自分で用意しない。自分のことになると途端に無頓着になる彼女らしいと言えば彼女らしい。だから、自然と鎮痛剤を用意することが陽子の役目になっていた。
「……ありがとう」
少し顔色がよくないまま道子は差し出された鎮痛剤を服用する。
道子が言うには、生理痛は内臓が締め付けられるような痛み、らしい。生理痛がない陽子にとってそれは想像し難い痛みだった。
「ブランケットもかけておきましょう」
下腹部が冷えるのもよくないらしい。以前西日本の女性職員に聞いたことがある。その女性職員は出産経験があり色々教えてもらっている。生理痛とは小さな小さな陣痛、と産婦人科医に聞いたという話をしたのも彼女だ。
瞼を下ろし、ほうと小さく息をつく。鎮痛剤が効くまで痛みをやり過ごそうとしているのだろう。
彼女の痛みが少しでも軽くなればと手助けをすることしかできない。手助けをできることは嬉しいが、その痛みが解らないことがとてももどかしい。
そばにいるのに。この期間になるといつも思うことだった。
彼女は一週間ほどこの痛みを抱えなくてはならないのだ。それを軽々しく、早く良くなってね、とは言えない。
だから、そばで見守ることしかできない。
「東京に着いたら休みましょうね」
下腹部をあたためるように撫でる。初夏が間近に迫った今の時期、冷房がかかり始めた車内で少しでも冷えないように。
「……いつもごめんね」
「いいのよ。それに、私はこれくらいしかできないし」
下腹部を撫でる陽子の手に己の手を乗せて道子は首を横に振った。
「それでも嬉しいの。東海道と二人きりだったときは一人でこの痛みをやり過ごしてたけど、今はあなたがいる。陽子が陽子でよかった」
綺麗に、綺麗に微笑む。
自分がどれだけその綺麗な微笑みに元気をもらったか。おそらく道子は知らないだろう。自分だけが知っていればいい。
「私もね、道子が道子でよかったわ」
だから彼女からののぞみを手に西に走ることができる。山陽が東海道からののぞみを手にして走るのと同じで。
そして、今は彼女と一緒に東へ走る。
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